幾千夜、花が散るとも
息継ぎの間も与えないくらい、存分に口の中を侵し尽くしてやっと離せば。可南はぐったりと俺に躰を預け、酸素を求めて喘いだ。涙の跡と、唇の端から滴る唾液を指で拭ってやり、きつく抱きすくめる。

「・・・泣かせてごめん。可南をまた千也に取られるのが口惜しいだけ。・・・今日はずっと俺のそばにいてくれるだろ」

「うん・・・一也といるよ。約束するから、・・・ね?」

宥めるみたいに可南が優しく言った。

俺を“弟”扱いする時と同じ。胸の奥が灼けつく。でも今日は可南の誕生日だ。台無しにしたくない。苦いものも、真っ黒いものも飲み込んだ。

俺から解放された可南がこっちを見上げて安心したように笑った。笑い返せたか自分じゃ分からなかった。とにかく今は帰ろう・・・・・・。無理やり思い直し、はっと気付いた。莉奈と十也を置いてきた。可南も二人を連れてきてない。

「可南、子供達は・・・?!」

焦って口調が険しくなったのを、当の可南はきょとんと小首を傾げてみせる。

「千也がいるから大丈夫だってば」

「なに言ってんの、千也に面倒なんか見られるわけ・・・!」

「忘れちゃった? あたし達の中でいちばん“おかあさん歴”が長いの、だーれだ?」

クスクス笑う彼女。

ああ。そうだった。腑に落ちて力が抜ける。俺と可南を育てたのは千也だ、紛れもなく。子供の扱いは慣れてるし、今ごろ十也が無邪気に懐いてるかもしれないと思うと、なんだか苛立つ。
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