幾千夜、花が散るとも
「莉奈は人見知りするだろ、千也じゃ泣く」

可南の手を引き、少し急ぎ足で来た道を取って返す俺。
家に戻ってみれば、莉奈を片手で抱っこした千也が、十也とかくれんぼをしてる最中だった。莉奈は俺を見ると手を伸ばしてきたけど、要らない心配をしたらしい。初めて会うもう一人の父親を、言わなくても分かってるんだろうか。

「せんやぁ、いちやもいっしょに、かくれんぼしてい~い?」

十也が俺の手を握り可愛らしくお願いするのを、千也と顔を見合わせてから、思わず小さく吹き出した。

「・・・まさかこの歳になって、千也とかくれんぼかよ」

「一也は怖がりだったから、押入れが苦手だったんだよなぁ」

「昔の話だろ」

「うん。今は立派なお父さんだネ」

俺が殴った左頬が無残なアザになっていた。それでも、相変わらずの笑い顔は何ひとつ変わってない。

「・・・当たり前だよ。千也がいないあいだ、可南を守ってきたのは俺なんだから」

皮肉も込めて言ってやったのに。

「オレの弟が一也でよかった」

俺の頭をくしゃりと撫でたバカ兄貴が心底嬉しそうに、今にも泣き出しそうで。・・・ずるいんだよ、千也は。心の中でぽつりと呟いた。




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