幾千夜、花が散るとも
疲れ切って寝落ちた可南を、裸のままでいつものダブルベッドに運んでやると、Tシャツとスェット姿にサンダルをつっかけて、出来るだけ物音を立てずに表に出た。寝静まった住宅街。何かしらの音が遠く近く。

日中はともかく、深夜ともなると空気は冴えている。でもそれが却って心地いい。少しは感傷的な気分も冷やせるだろう。

ネコの額ほどの庭に回り、立ったままで煙草に火を点けた。可南や子供達の前じゃ絶対に吸わない。高校生が隠れて吸ってるみたいだな、まるで。自嘲しながら口から紫煙を逃す。

「オレも、火ちょうだい」

気配に気が付いたときには、ラフな格好の千也が脇に立っていた。ライターの火をかざしてやると、前屈みになって千也が顔を近付けた。

黙ったまま二人でしばらく煙草をくゆらせ、俺が先に口を開く。

「・・・可南に言うつもりもないけど、櫻秀会のヤクザがらみで今まで消えてたんだろ? 少しは調べたんだよ俺も。何やってんの、・・・バカ兄貴」
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