幾千夜、花が散るとも
「ねぇ一也。千也にはお土産買ってって、あたし達は食べて帰ろっか?」

「いいよ」

 ブラブラしてたら夕飯に近い良い時間になってた。フードコートにするか、レストラン街にするか。渡り通路に設置されたフロアの案内図を見てた時。

「あっ北原さん・・・?!」

 ちょっと甘ったるいカンジの可愛い声がして、あたしも一也も同時にそっちを振り返った。

「やだぁ、偶然ですねっ」

 通路を正面から歩いて来たらしい三人連れの女子。真ん中の、普通に言っても綺麗めな女の子がキラキラと目を輝かせて一也の方にやって来る。

「・・・どうも」

 王子の仮面を被った一也は短く、申し訳程度の笑みを浮かべて挨拶した。
 
「え、北原さんもお買い物ですかぁ? あたしも今日は友達と買い物に来ててぇ、北原さんに会うなんてびっくりしましたぁ」

 にこにこにこにこ。・・・よく出来た作り笑いだなぁと横で妙に感心してるあたし。一也をさん
付けってコトは会社の後輩ちゃんかな。

「・・・浅野さんも買い物?」

「あ、はい。春物の洋服とか見ようかなって思ってぇ。北原さんは、デート、ですか?」

「まあ」

 少し言葉に詰まって、デートかを訊きながら彼女の視線が一瞬。恋人繋ぎしてるあたし達の手を盗み見た。

「北原さん、誰とも付き合わないって言ってたのにやっぱり彼女いたんですねぇ? 月曜日、会社に行ったら皆んなに話しちゃおうかなぁっ」

 笑ってるけど。悔しそうに悲しそうに眸が歪んでる。
 ・・・・・・・・・あ。もしかしてこのコ。

「・・・・・・じゃあ俺達行くから。お疲れ」

「あっ、はい。お疲れさまですぅ・・・っ」

 取り合いもしないであたしの手を引き歩き出した一也を、彼女がどんな表情(かお)で見てたか。あたしは知りようもないけど。
 隣りを歩く一也の横顔は、これでもかってぐらい冷めてる。あたし以外の女に手酷いのは相変わらずなんだと今さら悟った。

「・・・一也」

「なに」

「あんまり女の子を勘違いさせるようなのは止めたら?」

 多分あの子、一也が気まぐれに手を出してる。割り切った関係なんだとしても結局、傷付くのは彼女達。そういうのを平気でいて欲しくない。あたしにだけ優しいんじゃなくて。

「・・・勘違いなんかさせてない」

 立ち止まった一也はあたしを冷たく見下ろしてた。
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