幾千夜、花が散るとも
「俺は躰しか興味ないってちゃんと言ってる」

「・・・・・・・・・・・・」

 思わず絶句した。
 それでもいいって女の子は云うんだよ。一時だって一也を手に入れたいって思う、きっと誰でも。でもね、でも。

「女の子って一也が思ってるより割り切れてなんかないよ・・・」

 色んな想いを諦めて、どっか期待して。叶わなくて女は泣くんだよ一人で。

「・・・そんなの知らないよ。俺にどうしろって? 可南が俺のものになるんなら、他の女なんか要らないに決まってる。・・・分かって言ってるよな?」

 苛立ちを掠めて自嘲の笑みを浮かべた一也。

「一番ひどいのは可南のくせに俺を責めるの」

 知ってる。・・・違わないよ。云われて当然のことをあたしはしてる。たった三人きりなのに、あたしは千也を愛したんだから。

「・・・悪いって思ってるならキスして可南」

 何も言えずに俯いてるあたしに冷たい声が降る。

「今すぐここで。・・・でないと許さない」

 顔を上げる。
 悲しげに歪んだ一也の眼差し。

 ああ・・・あたしだ。一也にいつもこの顔をさせるのは。あたしが一生背負う咎だ・・・・・・。

 そっと手を伸ばして。一也の頬に触れる。
 こんな往来で。家族連れとかカップルとか、人波が途切れないこんな場所で。見も知らない他人に見せつけるもんじゃないって分かってる。でもそんなコトよりあたしには一也が大事だから。

 首に腕を回して一也の顔を引き寄せ、あたしから口付ける。啄むように優しく。それから少し開いた口に舌を滑り込ませ一也の舌を追う。絡めてなぞって、次第にどっちがどうなんだか分かんなくなる。
 一也があたしの腰を抱き寄せて逃がさないように。雑踏の声も何もかもがあたし達から消えて、ひたすら唇を繋げあって。

「・・・愛してる可南」

 唇を離した一也が呟いて、力一杯あたしを抱き竦めた。

「一生許さないから・・・、一生償って俺のそばにいて」


 
 いいよ。一也の為なら何でもするよ。

 この躰をあげることだけは永遠に出来ないけど。







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