幾千夜、花が散るとも
 ショッピングモールで一也と夕飯を済ませ、10時近くになって帰った。玄関の外灯だけ煌々と灯って、真っ暗い家に千也の姿は無い。
 前は、冬ともなると床下からものすごい底冷えした寒々しいボロ家だったけど、去年かなり大掛かりにリフォームしてからは。誰も迎える人がいなくても、そんなに薄ら寒さを感じなくなった気がする。

 一也はリフォームの話になった時、ここを売ってマンションでも買おうと言った。それを千也は譲らなかった。到底、良い思い出があるとも言えないこの家。あたしはどうしたいかを訊かれ、三人でいられるならどこでもいいと答えた。
 結局。リフォーム費用の殆どを負担する千也に従うことにして、ちょっとだけ新しく生まれ変わった我が家はこうしてまだここに残ってる。


 交代でお風呂に入った後、一也にせがまれて今夜も一緒にベッドの中。頬ずりされたり顔中あちこちにキスされたり、犬かナンかを可愛がるのとどっか間違ってんじゃないかと、呆れ気味に抗議すると。

「可南が犬だったら、鎖で繋いで、散歩も風呂もご飯もトイレも俺が何でもしてやるのに」

 さらっと怖いコトを言ってシニカルに一也は笑った。それからあたしの鼻の頭をペロリと舐めたかと思うと、顎に手をかけて上を向かせ初めから深いキスを繋げる。
 いつもの遠慮がちで優しいんじゃなく。隙間なく埋め尽くそうするみたいな、ねっとりと絡みつくように・・・遠慮のないキスだった。


 一也の腕に収まって、心地いい体温に包まれてるうちに寝落ちてた。ふと目が醒めて。でもカーテンの向こう側は真っ暗。まだ真夜中。寝付きは良い方なのに。

 ぼんやりしてると1階から物音と動く気配がした。千也が戻ってる。隣りを窺えば一也はあたしに腕枕を貸した格好で、お行儀よく上を向いて眠ってた。そっと起きたら気付きそうにない。ゆっくり身動いだ瞬間、腕があたしの肩に巻きついて来てぐっと引き寄せられた。 

「・・・起きてたの?」

「可南はすぐどっか行くから」

 不機嫌そうな顔がこっちを見てた。

「千也にお帰りって言ってくるだけ。ちょっと待ってて?」

「そんなの今じゃなくても・・・起きてからでもいいだろ」

「一也・・・・・・」

 ショッピングセンターであの後輩の子に会ってから、ずっとこんな感じだ。

「すぐ戻るしいい子だから。ね?」

 宥めるように少し困り顔であたしはお願いする。こうすると一也はたいがい諦めてくれるから。

「・・・・・・いいよ。すぐ戻るなら」

 するりと腕が解かれた。内心でホッとしつつ、ベッドを降りようとすると今度は手首を掴まれた。
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