幾千夜、花が散るとも
「それにうち、親がいなくて兄妹三人で住んでるんで、土日もほとんど家事で潰れちゃいますし。遊ぶヒマもないんですよー」

 だから放っといてくださる? こっちも軽い調子で、遠回しなお断り文句。

「・・・・・・好きな人って北原さんの片思い?」

「え?」

 いきなりそこで芹沢さんが真顔になってたから。・・・思わず引いた。

「・・・まあそんなトコですね」

「いっそのこと俺にしない?」

「いえあの、それ、は・・・」

 無理。

「そんな簡単にはいかないってゆーか」

「でも芹沢君ルックスまあまあだし、わりとお買い得だと思うよー?」

 坂東さんがしたり顔で横やりを入れてくる。
 爽やか系で仕事も出来そうな、サラリーマンとしちゃ合格点高そうな人ではある。こういう人と結婚したら人生も安泰そうだな、とかあるけど。

 あたしはそんなのは望んでない。

「お試しで1回デートしてみるってのはどう?」

 どうしてもこの女はあたしを焚きつけたいらしい。鬱陶しい。こういう場で真面目に断ったら空気も悪くなる。ノリでもOKするのが筋ってもんでしょ。・・・そんなのを匂わせて。

「えーと、まぁ・・・考えてみます」

「だって。良かったねー芹沢君」

 悪びれもなく笑ってる彼女。そんなに他人の恋愛に首ツッコみたいなら、結婚相談所にでも転職しろ。心底うんざりして、そろそろ帰ります、と口に出しかけた時。

「・・・可南、ここにいたの」

 テーブルの脇に誰かが立った気配に全員の視線が振り向いた。

「い、・・・ちや?」

 濃紺の細身のスーツに黒のコートを羽織った、あたしの王子サマが何故か。そこに立っていた。
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