幾千夜、花が散るとも
「一也・・・? え、どうしたの?」

 あたしはかなり混乱してた。だってここって一也の会社とは方向がまるで違う。バッタリ会うとか絶対にあり得ない。じゃあなんで?
 あたしを見下ろす一也の表情には何も浮かんでなくて。

「遅くなったら危ないから。迎えに来た」

「わざわざ?! ・・・よく分かったね、ここ」

「店の名前、ラインにあったし。調べればすぐ分かる」

「そっか。・・・ありがと」

 あたしが笑うと、ようやく一也も口の端を緩めて見せる。

「帰るよ可南」

「あ、うん」

 呆然とあたし達を見てるセンパイ方に。イスから立ち上がり、愛想良く挨拶をする。

「すみません、迎えが来たので今日はこれで失礼します。あ、ワリカンですよね、みなみ先輩、月曜に払うんで立て替えといてもらっていいですか」

「あ、うん。・・・じゃなくて! 可南子、もしかして弟君?! うそ、やだ、この兄弟イケメンすぎぃっ! こないだのお兄さんといい何なのぉっ」

「先輩その話はまた。ごちそうさまでした、お先に失礼します」

 最後までしっかりと愛想笑いを振りまき、荷物とコートを手にさっさと店を出る。降りるエレベーターの中で支度をし、ビルを出るとすぐに一也はあたしの手を繋いだ。 

「・・・可南の会社の男ってあんなのばっかり?」

 キレイな顔が嫌そうに。

「あんなのって?」

「今度言い寄られたら俺に言って。二度とそんな気が起きないように叩き潰す」

「一也の顔見たら全員、戦意喪失するから心配ないよ」

 溜め息雑じりにあたしは苦笑した。  

「それよりゴハン食べた? どっか寄ってく?」

「じゃあ・・・俺にちょっと付き合って」

「いいよ」


 あたしは無邪気に返事した。一也が何を考えてたかなんて知りもしないで。
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