幾千夜、花が散るとも
 一也がこうまでしてあたしを追い詰める以上・・・逃げ道はないかも知れない。どっかで分かってる。でも抗わないと、あたしは千也の許にも帰れない。だから。

 足掻く。

「・・・・・・・・・本気じゃないよね一也・・・」

 一也の胸元に埋まってるあたしの声が力無く、くぐもる。

「本気だよ俺は・・・。今ここで可南を抱く」

「・・・・・・あたしは・・・一也にはあげられない・・・・・・」

 声が震えた。胸が。苦しくて悲しくて痛くて。こみ上がってくるものを必死に堪えて。

「・・・俺が奪って勝手にもらうだけ。可南は悪くない。俺と千也の問題だから」

 その言葉に一気に心臓が締め上げられた。

「ッッ・・・、だめ、一也・・・っ、そんなの駄目っっ」

 悲痛な声を上げ、囚われた腕の中でもがく。
 そんなことしたら。
 何もかも失くなる。
 ぜんぶ壊れる。
 家族ですらなくなる。
   
「お、ねがい、一也、やめてよ。そんなことしたら、あたし達、駄目になる・・・ッッ」

 そんなのはイヤ。嫌。いや・・・っっ、耐えられない!

「あたしはずっと三人でいたいだけなのっ。一緒にいたいの、愛してるの、一也も千也もどうしようもないくらい愛してるの・・・っっ」

 もがき続けながら全身で声を振り絞って。けど。どんなに力を込めても一也はびくともしなかった。

「お願い・・・一也。他のことなら何でも・・・言うこと聞く・・・から」

 最後は力尽きてすがるように涙声で。

 一也はずっと黙ったままだった。どんな顔であたしを見てるのか、怖くて向けなかった。抱き締める腕は硬いままで、まるであたしは裁きを受ける罪人みたいに一也の答えを待ってる。

「・・・なら」

 やっと低い声が聴こえた時。躰ごと震わせてあたしは息を殺した。
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