幾千夜、花が散るとも
「・・・・・・なら。可南に言わせるだけだ、俺のものになるって」

 一也は抱き込んでた力を緩めた代わりに、あたしの二の腕を強く掴んでベッドの方に引っ張ってく。

「一也・・・っっ」

 コートも着たまま仰向けに倒されて、顔の脇で両手首を抑え込まれた。 

「もう遠慮なんかしない。・・・それで可南が苦しんでも泣いても、やめないって決めた」
 
 あたしを見下ろす一也の表情は真剣で。・・・息が止まりそうになる。
 一也があたしの心臓に穿(うが)った穴に。大きな鉛弾がのめり込む。
 抉って裂けて、血が滴り落ちる。


 いつか。

 こうなるって。

 まだ。

 大丈夫だって。


 二人を手離したくないあたしのエゴの代償が、これ。
 千也はあたしの愛しい男で。一也はあたしの可愛い男で。

 どうして俺じゃ駄目なの。
 何度も一也に云わせた言葉。 

 生まれた順・・・くらいの差だよ。
 そうあたしは宥めて、誤魔化して。

 三人でいる為に。ずっとあたしが一也の気持ちを殺してきたね。
 
 だから。
 今度はあたしが殺される番だね。


「・・・こんなこと今までしなかったのに・・・なんで?」

 あたしは抵抗しなかった。見つめ返せば、哀し気に歪んだ眸。けど一瞬でその色も消えた。

「時間は無限じゃないって・・・気付いただけだよ」

 近付いてくる、何の熱も感じない一也の顔。思わずきゅっと目を瞑って、躰を強張らせる。抑え込まれてる手首が更にベッドに沈んで。一也の身体があたしの上に圧し掛かった。

「キスさせて可南」

 耳元で言葉とは裏腹の冷たい声がした。

「ぜんぶ。俺のしたいところに」




 
 あたしの躰に一也が散らせる紅い跡は。・・・受けなきゃならない罰だった。だから言い訳もしない、自分にも。そして・・・千也にも。


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