幾千夜、花が散るとも

４章

　あたし達の両親は連れ子同士で再婚した。っていっても、あたしが２歳頃の話で。千也は“妹が来た日”を何となく憶えてるらしいけど、あたしも一也も物心ついた時からずっと３兄妹としか思ってなかった。

　千也は妹が出来たのがそりゃあ嬉しかったみたいで。記憶にある限り、ものすごい猫っ可愛がりされてる、今に至るまで。
　逆に一也は、幼稚園くらいからもうあたしに纏わりついて離れなかった。何しろキレイでカワイイ男の子って評判で、大人も子供も寄って来るのがよほど嫌だったのか、あたしの後ろでじっと隠れてるような子だった。高校も大学もあたしの後を追っかけて来て、まさか手を繋いで一緒に通うハメになるとは想像もしてなかったケド。

　無口で温和だった父と、無邪気で明るかった母。それなりに家族らしい家族だったと思う。母が男を作って出てくまでは。
　数年後には父がくも膜下出血でであっけなくこの世を去り。それからあたし達は三人きりになった。千也は中３、あたしと一也が６年生、５年生って年の秋。

　人が死ぬって意味は分かってたから、心細かったのはオトナがいないのに、これからどうやって生きてくのかで。未成年者には成年後見人が必要だとか、コドモには全く未知なコトなんかも、取りあえず父方の親戚がマトモな良識人だったお陰で、千也が成人するまで必要な手助けはしてもらってたそうだ。

･･･そういうのを千也は、あたしと一也には何も云わずにぜんぶ一人で背負ってた。いつでも笑って、大丈夫だよって。

　


　あたしが高校に入学して。卒業した千也は働きだしてた。

　家のコトがあるから部活には入らず、学校から帰って来たある日。今でも鮮明に憶えてる。台所で咥えタバコのままお米研いでる千也がおかえりって言った。そん時ちょっと振り返った横顔にね、あたしはいきなり惚れちゃった。

　それまでも友達からブラコン重症認定はされてたし、当然ながら自覚もあった。血の繋がりが無いコトも承知だ。あ、千也が好きだって思った瞬間にね。なんかすごく呆然としたのも憶えてる。今更かって思った。気付くの遅っ、って。で。あたし可笑しくなっちゃって。笑いながら千也に言ったの。


『ゴメン千也。今日で“妹”やめるね』