幾千夜、花が散るとも
 そんでね。噂なんかしちゃうと会っちゃうんだよ。会う気もないのに。

 1階から昇ってきたエレベーターに3階から乗り込み、4階で降りるつもりだった。到着して扉が自動で開き、その向こうで待ってた人と目が合った。

「あれ、北原さん」

「・・・お疲れ様です」

 軽く愛想笑いでやり過ごす作戦その1。

「あ・・・ちょっと今いいかな?」

 内心で舌打ち。芹沢さんはチラッと廊下に目線を走らせ、人けが無いのを確認するとあたしを階段の方に誘導する。

「これ俺の連絡先。良かったら今度、二人で飯でもどう?」

 プライベートの携帯番号が手書きされてる名刺を渡され、スマートに誘われた。女馴れしてるなぁコノヒト。

「えぇと、あの・・・」

「北原さんの携番、教えて?」

 爽やかな笑顔で有無を云わせない。しょうがない、一回会って断るしかないか。肉を切らせて骨を断つ作戦、その2。 
 
「後でライン入れるね」

 ・・・スマホ水没させていーですか。

 芹沢さんがエレベーターの中に消えたのを、心底うんざりした溜め息で見送って。 
 
 こんなどうでもいい男のコトなんか、考える時間すら惜しい。今夜の夕ご飯のメニューと誕生日で。頭はすぐに彼の存在を忘れ去ってた。申し訳なさの欠片も無く。





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