幾千夜、花が散るとも
 ここんとこあたしを離そうとしない一也に、千也のトコで寝るって言い切りその夜は。仕事で出掛けて主がいないベッドに一人で潜り込んだ。

 千也の部屋は床の間付きの和室をフローリングにして、床の間をハンガースペースにしたり、押し入れの中段をぶち抜いてデスクスペースにしたりと、セミダブルのベッドを置いてあっても狭く感じない。モノトーンで統一されてて、男ってどうしてこんなに黒っぽいのが好きなんだろ。

 帰りは真夜中だから、千也はあたしを起こすのが可哀そうだって言う。でもあたしは構わずに、壁際に寄って千也の布団で先に眠ってる。気配でやっぱり起きちゃうけど、おかえりを云って千也の腕の中でまた眠るからいいの。 


「・・・カナ」

 夢うつつに千也に呼ばれた気がして。目は開かないけど脳ミソが半分だけぼんやりしてた。布団の中に入って来た千也に、寝返りを打って躰を寄せる。

「・・・・・・おかえり・・・」

「ただいま」

 額にキスされる。Tシャツ越しにボディソープの香りがして、温かい千也の身体。キモチいい・・・落ち着く。

「おやすみ」

 優しい声があたしをもう一回、眠りに引き込みかけたけど。頑張って目をこじ開けた。

「・・・千也」

「ん?」

 千也も、もう眠そう。

「今度のあたしの誕生日・・・」

「・・・うん」

「デートのフルコース、・・・だめ・・・?」

 昼間はどっか出かけて最後はホテルの、フルコース。たまにはね一日中ずっと千也を独占したい。・・・されたい。

「・・・いいよ。もう休み取った」

 お店の定休日は月曜で。比較的、日曜もお客さんは少ないから、月一で連休も取れるって知ってる。だからそれをお願いしようと思ってたのに。先回りされた。

 思わず嬉しさダダ漏れの顔になっちゃってると。

「カワイイ顔、禁止」

 クスクス笑われて鼻と鼻がくっつく。それから腕を回し合ってキスを繋げる。

「あいしてる千也・・・」

「オレもカナが一番だよ」

 千也の甘いその一言だけで。あたしは安心して眠りに落ちてく。
 


 ねぇ一也。一也が駄目なんじゃないよ。あたしに千也が染み込みすぎてるんだよ・・・。 
 意識を手放しながら薄っすらと。・・・そんなことを思った夜だった。

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