幾千夜、花が散るとも
「えっ、いえっ、とんでもないっ」

 一瞬、千也を見て惚けた先輩は。慌てたように顔の前でブンブンと手を振り、分かりやすそうに照れ笑いを浮かべてはにかんでる。まあ初めて千也を見た時の女子の反応は大体がこんなモノ。妹のあたしですら毎日見惚れちゃうんだから、しょうがないよねぇ。

 線は細いのに野性味があって、甘い顔立ちのわりにどっか男っぽい。もっと雑な言い方するとワイルド系ぽい美男子? 切れ長で涼しい目元とか、通った鼻筋とか薄目の唇とか。肌もスベスベだしなぁ千也は。

 だらしなく緩んだままの笑顔で振り返ったみなみ先輩は。

「ちょっと可南子ぉ、こんなイケメン一体今までどこに隠してたのよぉ?」

 ・・・笑いながら鬼気迫ってた。

「えーまあその話は明日ってことでスイマセン、お先ですっ」

 こっちも最後まで笑って誤魔化し、千也を促してさっさとその場を離れる。

「明日、先輩に一日中ツッコまれるなぁ千也のコト」

「ちゃんとオレを褒めといてね」

 うんざりした溜め息を漏らすと、千也は横目で悪戯っぽく。恋人繋ぎであたしを離さないように、人波の間を悠々と歩きながら。

「カナ、お腹空いてるだろ? 何食べたい?」

「うーん、軽くていいんだけどね」

「じゃあ途中でどっかファミレスでも寄ろっか」

「うん。いいよそれで」

 車を停めたコインパーキングまで大した距離でもないのに。その間に千也を振り返った女の数知れず。

 もしこの男と目が合って微笑まれても勘違いしないでね。千也の中にいられるのはあたしだけだから。
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