幾千夜、花が散るとも
 翌朝。空は少し花曇りで、けど柔らかい緑と風にくすぐられる、出かけるにはすごく気持ちいい塩梅だ。

「車?」

「今日はね」

 運転する時だけ銀縁の眼鏡をかける一也は、あたしをヴィッツに乗せ、行き先を隠して出発した。

「おトイレとかちゃんと言いなよ?」

「はーい」

 オーディオから流れる聴き心地のいいジャズ。一也はあんまりポップスを聴かない。歌詞の入ってる曲は気が散るって前に言ってたっけ。
 今日はⅤネックのざっくりした春ニットに、カラージーンズ。裾を折った足許にトラッドシューズを履いてる。ストレートの黒髪をワックスで自然に形つけて。何してても様になるし、景色見てるよりこの子見てる方がよっぽど飽きない。

「・・・なに?」

 運転席から横目の視線。

「んー? あたしの一也は今日も美人さんだなって」 

「嬉しいの?」

「そりゃねー。内心でほくそ笑みながら、“うちの子キレイでしょ自慢”するのが快感なんだから」

 得意げに言ったら黙って呆れられた。

「でね。その一也に溺愛されてるトコを見せびらかすのがもっと快感」

 半分冗談で悪戯気味に笑うと、一也の横顔にふっと邪な微笑みが。

「なら遠慮なくそうする」


 ・・・あれ? ちょっと間違った。・・・かも?

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