幾千夜、花が散るとも
 しばらく国道を走ってた車は高速道路に乗り、方面からすると海っぽい。途中寄ったサービスエリアで、ベルギーチョコのソースがかかった贅沢ソフトアイスと、お醤油の香りが香ばしい焼き団子に釘付け。

「これからお昼食べるんだよ?」

 一也にたしなめられてアイスだけ二人で半分コ。フードコートのテーブルに隣り合わせで座り、カップに入ったやつを一つのスプーンで掬って、当然のように一也があたしに食べさせてる図。

「・・・ほらチョコついてる」

 分かっててわざと一也はあたしに顔を寄せ、口の端についたチョコを舐めとる。周囲のお客さん・・・ガン見です。


 ドッグランとか、ふれあい動物園的なものまであって。手を繋ぎ、ついでに散歩する。
 今日は行き先が不明だったから、スカートにしようかどっちにしようって迷ってたんだけど、結局コーディネートは一也任せ。膝丈のサーキュラースカートにブラウス。だっぷり目なドルマン袖のニットを被って襟だけのぞかせ、ワークブーツで。アウトドアな趣向らしい。

「ウサギがいるー」

 檻っていうよりフェンスで仕切られた庭にウサギが放し飼いにされてる感じで、親子連れが何組もそこにへばりついてた。

「子供の頃、ウチもハムスター飼ったよねぇ」

「欲しがったのは可南で世話したのは俺だったけど」

「そうだっけ?」

「そう」

 クスクス笑い合う。

「けっこう一也に面倒かけてたっぽいね、あたしって」

「別に。可南が喜ぶことしてただけだから俺は」

 ウサギを眺めてた眼差しがこっちを向いて、優しく笑んだ。
 ああ、この笑顔ヤバイ。あたしにだけ見せる極上のヤツ。確信犯でしょ、全くこの子は。心臓が落ち着かなくなったのを押し隠そうとしたけど、顔に出ちゃうからバレたなぁ。

「可南」

 繋いでた手をぐっと引き寄せられて、背中から抱き込まれる。

「可南が俺を見て笑ってくれるのが、一番うれしいんだよ。昔から」

 頭上で響いた声があんまり愛おし気だったから。うっかり抱かれたくなりそうで困った。


 ・・・・・・ガンバレ、あたし。
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