幾千夜、花が散るとも
 来たことも、たぶん聞いたこともないインターで高速を下り。のどかな景色の中を走ってると、ところどころに海岸線が見えてきた。内陸の方に暮らしてると、そんなに頻繁に見るもんでもないから素直に感動する。

「一也、ねぇ海だよ、海~」

「ん。海だね」

 ウィンドゥを少し下げて、風を入れながら走る車。ビルと電車だけの日常からちょっと離れるだけで、セカイが違って見える。

「観光地って訳じゃないんだけど、一日二組限定の美味しいランチの店があるんだよ。そこに向かってる」

 一也はやっと行く先を明かして、ほんのり笑った。
 一日二組限定とかって。すごいトコで修業したシェフが独立して開いた、隠れ家的なアレかな。

「そんなとこよく予約取れたね?」

 ちょっと目を丸くして驚くと。

「去年から予約してあったから」

 さらっと返されて更に目を見張る。

「今年の誕生日が土日にかかるのは判ってたし、別に大したことじゃないよ」

 何てことないような表情に照れが雑じってる。ああもう、ほんとに可愛いなぁこの子。

「すごい楽しみ。ありがと一也」

 あたしが破顔一笑すると、こっちに流れた目線も柔らかに崩れてた。あたしを想って、ああしようこうしようって一生懸命、考えてくれたんだろうな。あたしはシアワセだ、こんなにも愛されてて。
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