幾千夜、花が散るとも
 ・・・静かに切ないシアワセを噛みしめて。今日は一也の為に笑おうって決めて。カーナビに案内されて辿り着いたのは、眼下に海も広がって見える高台の平屋建て。裏手は高い樹々に囲まれた、本当に隠れ家的なところだった。

 40歳代のご夫婦が二人だけでやってて、地元で獲れた新鮮な魚や野菜を使った、気取らない“おもてなし”がコンセプトなんだとか。高級料亭で板前もしてたらしいご主人も、料理を運んでくれる奥様もすごく気さくで、眺めの良いサンルームでのアットホームなランチは、とても居心地が良かった。

 肝心のお料理は和え物とか煮付けとかムニエルとか、ほんとに気取りがない。絶品だったのは獲れたて野菜のバーニャカウダ。アスパラも人参も甘くて美味しい上に、おかわりまで頂けた。
 山のものも海のものも、これでもかって色とりどりの小鉢が並んで、お腹いっぱいに楽しめて。しかも最後には、“HAPPY BIRTHDAY”のチョコプレートが乗った、手作りの苺ケーキを振る舞ってくれた。思いがけないサプライズに一也も驚いてた。

『大事な方の記念日に遠くから来てくださってありがとう。心ばかりのお礼です』

 一也が電話で予約を入れた時、少しそんな話もしたそう。気遣いと優しさに感謝しながら、見送られた時には名残惜しさでちょっと寂しいくらいだった。

「すごい良いご夫婦だったね! 絶対また来たい」

 ケーキだけでもサプライズだったのに、“遠足のおやつ”だと言って奥様お手製のクッキーまで。至れり尽くせりで、心底シアワセな気分だった。
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