幾千夜、花が散るとも
 水族館の他にも色んなショップや飲食店が入ってるから、ちょっと遅めのお昼は軽く讃岐うどんの店に。スダチを絞った冷やしうどんがサッパリしてて美味しかった。

 ついでだからと、千也にウィンドウショッピングに誘われる。立ち寄る店々で店員のおねーさんが千也に見とれ、恋人繋ぎしてるあたしをチラ見。相変わらずデジャヴなシチュエーション。今度は千也と一也と三人で来てみようか。ナンか想像以上にすごいコトになりそーで、チャレンジする気にならなかったんだけどね。
 
「千也、ここちょっと見ていい?」

 自分好みなレディスショップの前で足を止め、隣りを見上げたら。ホストオーラ全開の甘い微笑みが待ってた。

「いいよ。じゃあオレに服えらばせて?」

 店頭の平置き商品をたたみ直しながら、『どうぞ、ご覧くださいませぇぇっ』と独特な尻上がりのイントネーションでこっちを二度見した店員のおねーさんは。「何かお探しですかぁ?」とキラキラお目目で千也しか見てない。

「何かあったら声かけるネ」

 千也がにっこり笑えば大概の相手は引っ込む。なかなか便利。

「千也も一也もあたしを着せ替えすんの、好きだよね?」

「しょうがないよ、大事なお姫サマなんだから」

 クスクスと頭の天辺にキスが落ちた。 

 店内をゆっくり回り千也セレクトの服を試着。店員のおねーさんのお世辞は適当に流し、どぉ?と、あたしの男に視線を傾げて。 

「色はさっきのがいいなぁ。・・・こっちは?」

 鏡越しに目が合うたび、ふんわり笑みが返った。
  
 千也はいつも笑ってる。
 思い返しても、あたしを怒ったコトがない。
 悲しい顔と寂しい顔はさせたかも知れない。
 時々ひどく儚そうに笑うから。・・・消えちゃいそうで不安になる。
 あたしだけを見てるようで遠くを見てる気もする。  

 いつも。あたしの幸せだけを口にするけど千也のシアワセってなに? 千也の欲しいモノってなに? 不意にあたしの中に溢れた想い。

「似合ってる」

 愛おしそうに目を細める仕草に心臓つかまれて。抱き付いてキスしたいって思った。・・・今すぐ千也のものになりたいって。

「千也」

「ん?」

「あのね」

「・・・いいよ」

 何も云ってないのに鏡越しの千也が淡く笑って頷いた。

「これ買ったら行こっか」


 いつだって千也はあたしのコト・・・分かりすぎ。




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