幾千夜、花が散るとも
 千也のミラージュに乗り、途中で国道沿いのイタリアン系のファミレスに寄った。
 あたしは和風のパスタ、千也はパスタはわりとクリーム系が好き。ゴハンを食べるのはついでみたいなものだから、お腹が落ち着いた頃にはそこを後にする。

「いつものトコ?」

 片手はハンドル、片手はあたしと繋いで運転してる千也が目線だけ傾げる。

「・・・ん。いいよ」

 あたしは薄く笑んで返した。

 
 来るたびに何でこんなトコ?って思うんだけど。倉庫だの畑の中だのを走ってたかと思うと、鬱蒼とした森とデザインチックな建物がぽっかり現れる。横文字で“クルーゼ”と読むらしい、新し目のファッションホテル。シックな外観でいかにもって感じじゃないトコと、お風呂が人工温泉のお湯で、入ると肌がツルツルになるのが気に入り。

 木曜の夜だからか、1階部分の駐車スペースは歯抜けの状態で色んな車が停まってる。ナンバーを隠してるのや、どういう訳か営業車とか。千也は目についた空きスペースにミラージュを滑り込ませて、降りたあたしとまた手を繋ぐ。

 ヘンに凝った部屋は落ち着かないから、今日はナチュラルな系統の部屋。どうせ内装なんて見てやしないんだけどね。
 部屋の角にコの字型に設えられたソファにコートと荷物を置くと。いつもみたいにベッドの端に腰を下ろした千也がやんわり笑う。

「おいでカナ」

 それが合図。ここからあたしと千也はただの男と女。
 上はクルーネックのカットソー1枚だけの千也の前に立つ。あたしの腰に回された腕。躰を引き寄せられて、立ってる分あたしが千也を見下ろしてる。
 ちょっと目を細めて見つめ返される。いいよ、おいで。そんな眼差し。

「千也ぁ・・・・・・」

 愛しい男の頭を自分の胸元にきゅっと抱き込んでから。離して、自分から口付ける。啄んだ瞬間にあたしの頭の後ろを掴まえた千也に抑え込まれ、口の中がいっぱいに埋まる。しなやかに掻き回されて理性がどんどん曖昧になってく。

 千也は柔らかくあたしごとベッドに倒れて体勢を入れ替えると、後はもう好きにされる。遠慮なんて一切ない。

「・・・声、足りない」

 もっと啼けって何度も命令される。
 
「ダメ。・・・まだ」

 永遠の責め苦かってぐらいに。

「じゃあ・・・お仕置き」

 男の本能を剥きだしで。妖しく、甘く、冷たくて激しい千也。 
 掠れて出なくなるまであたしは声を上げ続けて。身を捩って戦慄いて。
 

 あたしにくれるって云いながらいつも、千也の言うなりなんだけどね。
 アイシテルから許す。 
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