幾千夜、花が散るとも
 千也が初めてあたしの中に果てた。子供を欲しがってくれた。子供を授かるって、あたし達には本当に覚悟の要ることだけど。でも言ってくれた。

 ずっと望んでいいのか分からなかった。だって兄妹って枷は死ぬまで外せない。生まれる子に戸籍上、父親はいない、千也は父親になれない。それでも幸せ? あたしのエゴじゃない?
 三人でいられれば。それ以上のワガママなんて云わない。この先も仕舞いこんでおくつもりだったのに。
 
 26歳の誕生日に千也がくれたものは。宝石やお金や服をどんなに目の前に積まれたって敵わない、世界にそれこそたった一つだけ。千也からしか与えられないもの。だから余計に泣けた。


 涙と躰を落ち着かせてベッドの中で千也の胸元に顔を埋めると、大っきな掌が頭を撫でてくれる。

「・・・・・・いいの?」

 まだでも少し戸惑い気味にあたしは訊いた。

「いいよ」

 てらいも無く笑んだ気配。

「オレにはカナだけなんだから。当たり前でしょ」

「・・・うん」

 ちょっと涙声が戻った。
 愛されてるのがこんなに切ないって思ったのは初めてかも知れない。なに云われても泣ける気がするよ・・・もう。

「カナに似た可愛い女の子がいいなぁ」

「女の子はパパ似だよ?、普通」

「んーあんまりオレに似ちゃうと将来が心配だから」

 ・・・ゴメン、どんな心配してる?

「でもカナが産む子だから全部カワイイだろうねぇ」

 体勢を入れ替えて仰向けにしたあたしを、千也がにっこり見下ろした。

「最後までキツくなるけど今日は頑張って受け止めな? 本気で抱くからちゃんとオレについておいで、カナ」
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