幾千夜、花が散るとも
 訊けば、千也のバーの常連さんが彼氏と行くつもりだった旅行がダメになったとかで。

「オーナーの知り合いで、ユリコさんて愉しい人でネ。勿体ないからって譲ってくれた」

 ホテルにもその人が話を通してくれたらしく、どの辺りの温泉かなぁぐらいに思ってたら。超メジャーな避暑地の、超有名な高級リゾートホテルだった。

「・・・・・・・・・千也、ここってものすごく高いよね・・・?」

「んー? たまにだし、お兄ちゃんに任せなさい」

 クスクス笑いで誤魔化されてる。 
 千也はこういう時かなり秘匿主義だから。それを分かってるあたしと一也は顔を見合わせ、お互いに小さく息を吐いてそこはもう黙っといた。

「車で行けるし、いいんじゃない?」

 スマホの地図アプリでルートを検索したのか、一也がさらっと言う。

「三人で旅行は初めてだよね」

 自分で言って急に楽しみになって。浮き浮きしてきた。すると千也が悪戯っぽく笑う。

「オレと一也でエスコートしますよ、お姫サマ?」

 想像しただけで目が眩みそうになった。二人を連れて歩く日がやって来るなんて。どーか地球が滅亡しませんよーに。 
 
「可南・・・顔が変だよ」

 ニヤけるあたしを一也がちょっと慄いて、引いてた。




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