幾千夜、花が散るとも
 ゆっくり時間をかけた絶品のコース料理を堪能し、ちょっとだけバーラウンジにも寄る。
 
「お客で飲むって久しぶりだわオレ」

 千也はソファに身体を沈めて、気持ち良さそうにグラスを空けてる。
 ここも全面ガラス張りで。闇夜に浮かぶライトアップされた水辺が幻想的で別世界のよう。

「一也と呑むのも初めてだしねぇ」

「そうなの?」

「・・・かも」

 四角いテーブルの3面を囲むように、一人掛けソファにそれぞれ座って。珍しく千也と一也を隣り合わせにしてあげた。
 千也は職業柄ともかく、一也は家では缶ビールかチューハイだったから、ウィスキーの水割りを頼んだ時は意外だった。

「なんか、お父さんと息子が初めて一緒に飲むみたいになってない?」

 あたしはクスクス笑う。 

「今度三人で飲みに行こーよ」

「可南はすぐ眠くなるし。・・・千也はザルだろ?」

「もー、一也はそうやって素直じゃないんだからー」

 冷めた顔の一也に口を尖らせると「分かったよ」と溜め息雑じりで返った。千也はそんなあたし達を見ながら微笑ましそうに。

「カナと一也は仲良いネ」

 一瞬その眸がひどく儚げで、遠く見えたから。分かんないけど打ち消したくて、あたしはわざと明るく。

「言っとくけど甘えん坊なのは一也の方だからね?」

「何が悪いの」

「ソコは否定しとけば、一也」

 おどけるように。さっきの千也はもう消えてた。



 
 部屋に戻って寛いで。

「三人で一緒に風呂入ろっか」

 にっこり笑ってそんなコトを言い出しても、千也らしいって。思っただけだったの。 
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