幾千夜、花が散るとも
 汗とか色んなモノに塗れた躰をお風呂で流し。二人でも余裕なバスタブの中で、好い加減のお湯にのんびり浸かる。

「はぁ・・・キモチいい・・・」

「なんでカナは長湯が出来ンだろ。ずっとオレと一緒に風呂入ってたのに」 

「何でだろね。千也はすぐ上せちゃうのにね」

 長めの髪をポニーテールにして括った千也は、両腕をお湯から出してすでに熱そう。背中を預けて千也の足の間に挟まりながら。あたしは極上の気分でいる。

 こうやって千也の素肌と触れあってるのすごくスキ。だってあたしの男だ・・・ってものすごく実感できるから。今だって夜は一緒に寝るけど、さすがに裸はダメって言うし。今さらソコに線引きを求めるのってどうよ、って思うんだけどね。変なとこはお兄ちゃんなんだから。

「そー言えばさぁ、ちょっと思い出した。カナはホワイトデーって何でホワイトか知ってる?」

 千也が不意に。
 ・・・バレンタインは司祭か誰かの名前だったっけ? お返しの日がホワイト、・・・白。あれ、考えたことも無かった。

「ホワイトってシュガーって意味もあるらしくてさ。キャンディ協会の人が甘いとか純愛とかってイメージで付けたらしいよ?」

 へぇ、なるほどねぇ。前はお返しったらキャンディだったけど、今は何でもアリだよね。お菓子なら何でもとか、カノジョの欲しがるものとか、千也とか。

「それ、ホストやってた時、口説き文句にしてたんでしょ?」

「んー?まあねぇ」

 二人でクスクス笑う。
 
 千也は高校を卒業するとすぐに水商売で働き出した。自分が商品になる価値を良く判ってたからだと思う。幾つかのホストクラブを転々として2年前に辞めた。どこのお店でも人気はすごかったらしい。そりゃそうよ、千也だもん。

 今はホスト時代の知り合いのツテでバーの雇われ店長だ。口コミで広がっちゃって毎晩、女性客で埋め尽くされるらしいけど。

「・・・カナ。オレもうダメ」

 勢いよくザバァッと後ろで立ち上がり、しぶきを散らして千也がお風呂から出てく。冷蔵庫のミネラルウォーターを一気飲みの最中かなぁ。

 ダメだからね千也。夜はまだこれから。・・・なんだからね?


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