幾千夜、花が散るとも
「お前は違うの?」

 あたしを抱く時の有無を云わせない口調で千也は言った。しばらくの沈黙があって「・・・言いたい事があるなら云えよ」と一也が低く答えた。
 
「オレの子が生まれたら」

 千也の言葉一つ一つ、躰中の全神経を集中させてあたしは耳をそばだてる。 

「兄弟が欲しい。一也とカナの子が」

 刹那。あたしを抱き込む一也の腕にことさら力が籠もった。

「・・・・・・本気で?」

「冗談で言えないだろ」

「可南が言ったの?」

「訊かなくても知ってる」

 千也が笑んだ気配。あたしは何も云えずに、ただ小さく頷いて見せるだけ。

 ああやっぱり。見抜かれてた。そうやって千也はいつも先回りして、あたしの願いだけを叶えようとする。自分よりあたし。自分を後回し。こんな誰にも赦されない願いですら。

 どうして分かっちゃうんだろ。
 ねぇ千也。
 千也の愛ってどこから生まれてくるの。
 深くて。・・・深すぎて。

 最初からまるで手の届かないとこにいるみたいで怖くなる。
< 51 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop