幾千夜、花が散るとも
「それが言いたくて、わざわざ俺達をこの旅行に連れて来たんだろ」

 ふとあたしを抱き込んでた腕の力を緩めて、一也が溜め息雑じりに呟いた。 

「らしくない」

「3人で来たかったのもホントだよ」

 二人の間の空気が戻って来てるのを、ほっとして。多分それも気取られたみたい。カナ、と淡い笑顔があたしを呼んだ。
 安心して甘えるように首に手を回し、割りと筋肉質なその肩に顔を埋めると。子供をあやすみたいに千也は優しく頭を撫でてくれる。

「・・・オレはカナが欲しいものは何でもあげる」 
 
「・・・うん・・・」 

「オレにはカナが一番大事」

「・・・うん」

 顔を上げて目を合わせ。啄ばむようなキスを重ねる。

 千也に伝えたい想いはいっぱいあった。ありがとうも、うれしいも、愛してるも、ごめんねも。でも言葉にしようとすると切なすぎて、形にできない。一也とのコトを許してくれるのだって、そんな簡単なもんじゃない。兄弟で一人の女を別け合って。・・・子供を望んで。

 愛ですべてが片付けられるワケじゃない。・・・それでも。千也はくれる。 

「カナの幸せ見てるのが一番シアワセだよ、オレは」 
 
 なんてこと無いように笑う。

 ねぇ千也。それが千也の欲しいモノなら。
 あたしは約束する。
 この先どんな事があったって、シアワセでいる為に生きるよ。
 千也が欲しいものをあげる為に生きるよ。 

「・・・あたしは千也がいてくれれば、それだけで幸せなんだからね・・・」

 目を細めて千也があたしを掴まえる。頭の後ろを抑え込まれ、繋がる深いキス。こみ上げる想いのままにあたしからも千也を欲しがって、きりが無いくらいに。
 すっかり二人だけの世界に嵌まりかけてたら。

「・・・・・・いい加減にしないとこの後どうなるか分かってる?、可南」

 背中からの凍てついた一撃に、一気に引き戻された。正気に返った時には遅くて。恐る恐る後ろを向くと、完全ブリザード状態の氷の王子サマが絶対零度の冷気を放って、あたしを無慈悲に見下ろしてる。

「千也の前で続きをしてもいいんだよ、俺が」


 ・・・もしかして。一也のほうがよっぽど千也より容赦ないんじゃ。



< 52 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop