幾千夜、花が散るとも
 毎晩。そう聴こえて思わず涙も引っ込んだ顔を上げた。やんわり笑う真っ直ぐの眼差しとぶつかって。365分の5日の約束はいいのかと、あたしが口に出す前に。

「好きなモノはね、思いっきり食べることにした」

 どことなく晴れやかで迷いもない微笑み。
 ホワイトデーの夜に千也が言ったのを思い出す。好きなモノは少しずつ食べるって。どういう心境の変化だったのか、あたしには分からないけど。単純に嬉しかった。あたしから、千也にそうお願いするつもりだったのに。

「・・・いいよ。残さず食べてね?」

 ちょっとはにかみ笑いで。

「一也の分、残すの忘れたらゴメン」

 悪戯っぽい千也の笑顔に、ほら。色んなものがフッ飛んで、ココロが掬われて。前を向いてる。






 6月23日は一也の誕生日だ。一也のリクエストに応えるのが、まず第一。プレゼントは何にしよーかな・・・なんて呑気に思ってたら生理が来なかった。

 肩の力が抜けてたら赤ちゃんが来た。





 でもそれが何と引き換えになるのかを。あたしは何も知らなかった。





< 57 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop