幾千夜、花が散るとも
「カナ、手出して」

 バスタオルを躰に巻いてベッドに戻ると。裸のまま胡坐をかいて上に座ってた千也があたしを手招きする。

「?」

 向かい合って無意識に左手を差し出した。すると、ピンクゴールドの2重リングにイミテーションダイヤが5つ付いた、ピンキーリングが嵌められる。

「ホワイトデーのお返し」

 千也はそのまま、キャンディより百万倍甘いんじゃないかって微笑みで。嵌めた小指にしっとり口付けた。
 うわぁ。ホストモード全開で来たぁ・・・っ。頬に一気に熱が集まり、血が沸騰するかと思う。

「・・・千也。心臓止まるからヤメテ」

 こんだけ見慣れてるのに。・・・ああやだ、どこまでカッコ良いにもホドがある!
 照れ隠しもあって、あたしはわざとツンと口を尖らせた。

「てゆーか、いつも千也だけでいいって云ってんのに」
 
「全部あげたら次のオレが無くなっちゃうよ? 残す代わりにコレなんだけどなぁ」

「何それ」

「好きなモノは少しずつ食べる方が美味しいって話」

 そう云うと千也はあたしをひっくり返し、顔の両脇で手首を掴まえた。

「・・・あのね。オレはカナが可愛くてしょうがないから、我慢しながら喰ってるんだよ」

 妖しく笑った気配。少し低い声で甘く耳元に囁かれる。・・・頭の芯が眩んでゾクゾクする。躰中の細胞って細胞が千也を欲しがって。うねってる。 

「じゃないと、あっという間にカナが無くなっちゃうだろ?」

 だから?
 たったの365日分の5?

「・・・ッッ」

 言いながら。あたしの中に千也が埋まる。一瞬、息が詰まるような圧迫感も動かれるとどうしようも無くなって。頭が白くなる。繋がったまま向きを変えられるたびに、自分の声じゃないみたいな悲鳴が漏れ出る。

 千也の荒い呼吸とか、低い呻きとか。あたしの名を切なげに口走ったりだとか。

 もっと聴いてたい。耳に刻みつけたい。

 朝になるまで一刻だって離れてたくない。永遠にこうしてたい。



 ああ・・・ごめんね一也(いちや)。違うよ、帰ったらちゃあんと兄妹に戻るよ。一也を独りになんかしないから・・・・・・。

 千也に侵されて言うことを利かない躰。最後の理性を手放す前に。あたしは一也を思ってから、残らず千也に呑み込まれていった。




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