幾千夜、花が散るとも
『じゃあ俺も会社辞める』

 千也の話を聴いた一也が、憮然として言い出したのもおおよそ想定内だったから、あの手この手で宥めすかせた。

 朝7時。一也に合わせてあたしも起き、一緒にご飯を食べて見送り。これがルーティン。

「行ってくる。帰りは7時半くらい」

「ん。行ってらっしゃい、気を付けてね」

 玄関先で。普通は軽いキスとハグで済みそうなんだけど、一也はそうはいかない。頭の後ろをしっかりホールドされ、たっぷり5分はかけて口を繋ぎ合ってから満足そうに出掛ける。

 一也曰く。

『俺と可南のほうがよっぽど新婚らしい』

 


 身体のリズムがすっかり夜型になっちゃってる千也はやっぱり朝が弱い。9時前後に起きて、それでもまだ眠そう。

「・・・おはよ、カナ」

「おはよう」

 ダイニングテーブルの前に腰掛けた千也と、こっちはライトキス。
 ゆで卵サラダとコーヒーだけの千也の朝食を用意して、食べ終わるまであたしは2杯目のココアでお付き合い。

「千也」

 レタスを口に放り込んで視線を傾げたお向かいさんに、にっこり笑んだ。

「誕生日なにが欲しい?」

 明後日の9月8日は千也の29回目の誕生日だ。いつもなら、カナが欲しいって云われるから、まんまそのままだったけど。今年は初めて千也にナニかあげられる。

「誕生日かぁ」

 しばらく考え込み。じゃあ、と事も無げに笑った。

「オレと結婚して?」
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