幾千夜、花が散るとも
 「おいで」とあたしを自分の膝の上に座らせた千也。ちょうどお腹の辺りに後ろから、やんわり腕を回された。

「オレはこの子の父親で、カナはオレの大事な奥さん。北原千也と可南子の結婚記念日はオレの誕生日。・・・どう?」

「・・・・・・うん」

 頭の後ろで優しい声がして。最近、涙腺がやたら脆いあたしはもう鼻声。

「男だったら十也(とおや)だっけ? 女の子だったらね、菜々(なな)ってよくない?」

 北原菜々。

「・・・カワイイ名前だね」

「でしょ」

 微笑まれた気配。

「後はやっぱりカナのウエディングドレス見たいから、写真は撮りに行かないとなぁ」

「・・・ん」

「ママが泣くとお腹の子も悲しくなっちゃうよ。嬉しい時は笑いな?」

「・・・だね」

 鼻をすすって泣き笑いで涙を拭う。 


 他人からしたら。
 全部が莫迦げたママゴトかも知れない。
 
 兄妹で愛し合って真似事のような結婚をする。

 それでも。
 世界に取り残された三人で生きてく以外、考えたコトなんかない。

 母親が出てってから、お金だけ置いて子供に見向きもしなくなった父親。いつもいつも、あたしが千也にくっついて。一也があたしにくっついて。ゴハンもお風呂も買い物も、何をするにも子供たち三人で懸命に生きて。

 でもあたしは平気だった。
 千也が笑ってくれれば、何も怖くなかった。

 今も千也が笑うから。
 この先の未来がどんなでも。

 二人がいてくれさえしたら強くなれる。なってみせる。

 その誓いがあたし達の結婚なんだって・・・思う。

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