幾千夜、花が散るとも
 木曜の夜。仕事から帰った一也の第一声は「・・・何これ」。
 千也の好きなモノを並べた和中洋の食卓。大皿に、チラシ寿司とエビチリとケーキ。合い間をおひたしやオイキムチ、おつまみのチーズやなんかが埋めてるんだから、ナニコレだよね。

「千也の誕生日だから」

「あとね、オレとカナの結婚記念日」

 あたしがわざと外した言葉を、千也は笑って付け足した。
 一瞬、一也は表情を消したけど。

「なら来年の俺の誕生日も、そうするよ」

 あたしと目が合うとそれだけ言って、着替えに2階に上がってった。
 



『誕生日おめでとう、千也!』

 そろって食事を始めれば、なんだかんだと一也がホスト役になってる。
 
「千也、ワイン飲むなら開けるけど」

「いいねぇ」

 二人の何気ない会話もあの旅行以来、増えてきた。今まではどうしても時間のすれ違いや、あたしを独り占めにされてるって、一也は千也に素っ気なかった。
 全部が消化しきれるハズも無いのは分かってる、でも。風向きの変化を一也なりに受け止めようとしてくれてるみたいで嬉しかった。 
< 63 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop