幾千夜、花が散るとも





 それから。一也が休みの週末に、衣装セット込みのフォトスタジオにも3人で足を運んだ。
 新郎が2人に新婦が1人なんていう、前代未聞だろうなって注文を、あたしがシングルマザーの妊婦で、兄弟が父親役をしてくれる的な家族愛アピールで誤魔化し。期待以上に担当スタッフさんが奮起してくれて有難いやら。

 肩を出したエンパイアラインのふんわりドレスを選び、それなりのメイクをしてしてもらって、仕上げに頭にティアラを乗せる。肘上までのウエディンググローブをしてブーケを手に、佇む鏡の中のあたしは紛れもなく花嫁で。

「本当にとってもお綺麗。お幸せそうなお顔されてますよ」

 スタイリストさんが満面の笑顔で称賛してくれた。

「・・・うん。世界一かわいいヨ」

「このままガラスケースに飾りたい」

 目を細めて云ってくれる二人。

 そういう千也は、紺色のショートフロックコートに、シャンパンゴールドのアスコットタイ。一也がグレーのモーニングコートに、シルバーのアスコットタイで。一也は普段から細身のスーツがしっくり合ってるし、千也もホスト時代は着こなしてたから、似合うのは分かってた。
 どっちも髪を後ろに流す感じで、綺麗に整った顔立ちが殊さら際立ってる。フォーマルの白手袋を手にした二人を見上げ、千也があたしに微笑んでくれた時。夢にも思ってなかった姿に思わず涙が零れ落ちた。

「あらあら花嫁さん。写真が終わるまで、もうちょっと我慢しましょうね」

 わざと明るくスタイリストさんがそっと涙を拭いてくれる。

「・・・二人があんまりカッコいいから感動しちゃって」

「素敵なご兄妹で羨ましいですね」 

「あたしの宝物なんです」

 立ち位置で、裾の広がり方や見栄えをチェックしてもらいながら、はにかんであたしは笑う。

 白の長手袋の下には左の薬指に、千也から贈られた指輪が。右の薬指には一也からの誕生日の贈り物が嵌まってた。
 千也と一也それぞれのツーショット写真と。あたしがイスに座り、両脇に二人が立つスリーショット。キミもお腹にいたんだよ。生まれてきたら教えてあげなきゃ。 
< 64 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop