幾千夜、花が散るとも
　千也はあたしの男。簡単に言える。同級生も先輩も後輩も周りの男子は仲の良いトモダチでしかなく、恋愛を自覚したのは千也が初めてだ。初恋の相手で初めての男。
　
　でもファーストキスの相手は一也だって、千也はたぶん知らない。中２の時、一也が自分の誕生日にあたしとキスしたいって言ったコト。

『俺が可南の知らない誰かとキスしても、可南は平気なの？』

　綺麗なカオを悲しそうに歪めて『俺は可南が好きだから、可南としかしたくない』って。

　あたしは異性としてって言うより、可愛くてしょうがない弟を他の誰かに奪られたくないって気持ちが強かった。夜は千也が仕事でいないから、心細さを埋め合うようにあたし達は時々一緒に眠った。一也はあたしを抱き締めて、そのたび切なげにキスを強請った。

『しょうがないね一也は』

　困ったフリで、可愛い“弟”があたしに執着してるのがただ心地よかったのかも知れない。



　千也は一也にあたしとのコトを隠さなかった。

『･･････千也が好きでもいいよ。俺をちゃんと好きになって可南』

　一也も退かなかった。
　
　ひたすら一途にあたしを愛す一也が愛しくてしょうがない。誰にもあげない。離してあげない。一也のなんかよりもっと原始的な独占欲だって思う。

　俺は可南のなに？

　そうだね。
　あたしは千也のもの。
　一也はね。

「一也はあたしのもの。･･･ぜんぶ」

　真っ直ぐ見て言ったあたしに一也は少し目を見張って。

「･･･そうやっていつも酷いんだよ可南は」

　泣きそうに笑んだ後。

「いいよ全部くれてやる。その代わり絶対に俺を離すな。一生、可南に繋いどけよ」

　片手で顔を覆って乱暴に言い放った。そんな言い方は初めてだったのに、それがずい分と男らしくて不意打ちだった。



　その日からどことなく弟って気がしない。目が合うたびに一也を意識しちゃうとか。･･･今さら困ってる。



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