幾千夜、花が散るとも
2章
「で? あのイケメンはどこで拾ったの?」

 次の日。お昼休憩に入るなりみなみ先輩から早速、尋問が開始された。

 このビルの3階から5階までを賃借しているウチの会社には当然、社員食堂なんてものは存在しない。4階の小会議室が休憩室を兼ねてて、電子レンジと冷蔵庫、湯沸しポットが備え付けられてる。会議用の折り畳み式の机とパイプ椅子が学校の教室みたいに並んでるから、あとは好きに使えという訳だ。

 空いてる席に隣り合わせで座り、お弁当を広げながらみなみ先輩はからかうように言う。

「それとも宝くじでも当たった?」

 ちなみに、あたしも先輩も毎日お弁当だ。近くにコンビニも飲食店もあるけど、ムダにお金を使うこともない。・・・まああたしの場合、毎朝お弁当を作ってんのは一也だけど。それも先輩にはまだナイショ。

「拾っても当たってもないですって。兄ですアレ」

「お、・・・兄さんっっ?!」

 素っ頓狂な声が響き渡り、近くの席の社員の視線が一斉にこっちに向かって刺さった。先輩は慌てて口を押さえヒソヒソ声で喋る。

「あれだよね、可南子って兄妹三人で実家で暮らしてんだっけ? ウソ、あんなカッコイイんだ、お兄さん!」

「一緒に暮らしてると慣れちゃうんですけどねぇ」

「え、てことは弟さんも超イケメン君?!」

「一也ですか? あーまあ、そーなんですかね」

 笑いながら適当に誤魔化した。

「ちょっとぉ、写メないの?、写メっ」

「あの子そういうの全然ダメなんですよ。写真嫌いで」

「なんだぁ残念だなぁ。弟君、何歳だっけ?」

 プチトマトを指でつまんで口の中に放り込み、先輩が首を傾げる。 

「あたしの1コ下で24です」

「お兄さんは?」

「3つ上だから今年29かな」

 前にも家族構成は話してるけどね。関心薄いコトはすぐ忘れちゃうんだよね、みなみ先輩は。
 
「お兄さん、飲食系の仕事だったっけ? 弟君は何やってんだっけ?」

 ハイハイ、それも前に言ーましたよ。

「ⅠT系です。どういうんだかよく分かんないですけど」

「仲良いって言うのは聞いてたけどさぁ。あのお兄さんじゃブラコンになんでしょ可南子」 

 ニンマリと笑ってゴハンを口に運ぶ先輩。
 ブラコンなんて。そんな可愛いモノじゃないですよ。

「まあそうですね。子供の頃からお兄ちゃん子なのは、確かかな」

「いーなぁ、あたしもあんなイケメンお兄さん欲しかったなあ~っ」 

 ウチは妹だけだからさぁ、とお喋りが続くのを適当に相槌打って聞き流す。

 明日は土曜だし。日曜と2日も休みを挟めばこの話も終わるかな。
 ちょっとうんざりしながら、最後の玉子焼きをあたしはしっかり味わった。



 
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