幾千夜、花が散るとも
 なんで千也がそう言い出したのかも、それまでの全ても。あたしは知らないだけだった。目の前のシアワセな時間しか見えてなかった。



 ベッドに横たわる、お腹がふっくらして肉付きも良くなっちゃってる裸のあたしを。千也が愛おしそうに見つめて。掌で包み込むようにお腹に手を当てたり、耳を寄せてみたり。「アイシテル」って言い聞かせるみたいに何度もキスを落とすから。ちょっとくすぐったくて微笑ましかった。

 それから。あたしが無理にならない体勢で、お腹に負担をかけないように。優しく丁寧に隈なく愛撫される。気持ちよくしてくれて感じさせられて。ゆっくり追い詰められて、果てて。最後はちゃんと千也と繋がった。久しぶりの充足感にあたしはこの上なく満たされてた。

「・・・カナ、きつくない?」

 千也の腕枕に鎮まった躰を収め、髪を撫でられながら。ちょっと心配そうな声が降る。

「大丈夫。・・・すっごくシアワセな気分」

 小さく笑うと、「そっか」と笑んだ気配。

「・・・千也は足りなくない?」

 ちょっとだけ気になった。・・・だってものすごく気を遣って抱いてくれて。あたしは良かったんだけど千也はどうだったのかなって。

「カナを抱いて足りないって思うのは時間ぐらいだよ」

 クスクスと返った。

 ほんと千也って! 心臓鷲掴みにするコトしか言わないんだからっ。照れてナンにも云えなくなった代わりに千也にキュッと躰を寄せた。
 
「・・・・・・オレの可愛いカナが奥さんになって、カワイイ子を産んでくれるなんてねぇ」

 髪を撫で続けてる千也がふと感慨深げに呟く。

「カナが来た時のこと憶えてるよ。オレが遊ぼって言っても全然ダメだったのに、よちよち歩きの一也がカナに寄ってったら、嬉しそうなカオしてさ。あの頃からカナは一也がお気に入りだったなぁ」

 えーとそれは、可愛らしいモノ好きの女子共通の遺伝子のせい・・・じゃないかな?、きっと。 

「でもすぐにオレにも懐いてくれて、カナの笑う顔が見たくて何でもしてやりたくなった。オレはねあの頃からもうカナが一番大事なコで、可愛くてしょうがないんだ」

 千也の甘くて心地いい声を、あたしはほんの少し微睡ながら聴いてる。

「・・・オフクロがいなくなった時もオヤジが死んだ時も、カナが一生懸命、寂しがる一也を慰めてたろ。泣きたいの我慢して笑ってるの見て・・・何があってもオレが守ってやろうって思った。カナがいなかったら、オレはもうココにはいなかったかも知れないし、だからね、オレはカナの為に生きてるんだよ」

 撫でられる掌の温かさと柔らかいリズムに意識が半分、持ってかれながらココロの中で。あたしだってね、千也がいてくれたから。

「ほんとは一也にもカナをあげたくないんだけどね。・・・弟だからね」

 今日の千也はお喋りだね・・・・・・。
 ほわんと呑気にあたしは遠くで思ってる。

「オレはこれからもカナの幸せしか考えてないよ。それだけはずっと変わらない。・・・憶えてな、カナ」
  
 ・・・うんわかってる。千也はいつだって・・・そうしてくれてるもん・・・・・・。

 あたしが眠そうな声でそう答えると。愛してるよって聴こえて。子守歌みたいに安心して、気怠い眠りに引き込まれていった。

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