幾千夜、花が散るとも
「でも」

「もう次も見つけてある。・・・前に辞めた先輩の会社が人手を欲しがってて条件も悪くない。通勤も1時間かかるかってぐらいで育休も普通に取れるらしいし、フレックスだからやりやすいと思う」

 あたしに言い重ねる隙を与えず一也は言葉を連ねた。その表情を見れば分かる、もう決めてるって。だから止めはしないけど。

「・・・一也の人生なんだから好きにして欲しいって思うよ。でもあたしの為に無理にガマンするとか、一也が苦しい思いするのは絶対イヤだからね?」

「俺は可南の為だったらいくらでも我慢するよ」

 冷めたように言い切って。

 たぶんこういう時、千也なら笑う。オレは苦しいって思ったコトないよって。
 いつも二人とも自分を顧みずに自分を盾にする。無償の愛。きっとそれは“母親への愛”にも似てる。

 あたしは手を伸ばし一也の頬に触れた。柔らかくその指を握られる。 

「・・・一也もあたしを甘やかしすぎ」

「千也には負けないよ」

 そう言ってあたしの掌に口付けると一也は目を細め。口の端で薄く笑んだ。



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