幾千夜、花が散るとも
 事故に遭ったんじゃないか、事件に巻き込まれたんじゃないか。不安で不安で気が狂いそうだった。29歳にもなった大人が1日2日いなくなった位じゃ警察は取り合わない。一也に必死に説得されて、3日目に捜索願を出しに警察署に向かった。
 今まで一度だって連絡も無しに外泊はしなかった事、自分の意思での家出や失踪は絶対にあり得ない事、仕事だと言って出かけた事なんかを一也は淡々と担当者に説明した。

 他人事のように事務的な担当者に。

「あたしとこの子を置いて千也がいなくなるワケないんです・・・っっ!! 真剣に探してくださいっっ」

 あたしは怒りをぶつけて泣き叫んだ。



 真っ先に千也のバーにも行った。テナント募集の不動産屋の広告がドアに貼ってあって無人だった。その不動産会社に行って事情を説明しても、個人情報だからとか、単なる募集管理だけだから分からないとか全く埒が明かなかった。

「一也ぁ、どうしようっ。ねぇ、どうしたらいいのっっ、千也どこにいるの、どうやって見つけたらいいのぉっっ」

 警察なんてアテにならない。千也の部屋に手掛かりは無いか探しても何ひとつ出て来ない。
 
 絶望でココロの中が真っ暗になって。悲しくて悲しくて悲しくて。泣いても泣いても涙が止まらない。千也がいない、どこにもいない。生きてけない。千也なしじゃ生きられない。千也、千也、千也ぁっっっ。

 一也に抱き締められながら、あたしは千也を呼び続けて泣いた。 
 ココロが千切れて擦り切れて、悲しみだけに閉じ込められて。
 目も開かなくなるぐらい泣き腫らして。
 それでも涙を流すだけの壊れかけのあたしを。

 一也はただひたすら抱き締めて。離さなかった。

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