幾千夜、花が散るとも
 いないって思うだけで悲しくて苦しくて。しばらく入ることも出来ずにいた千也の部屋は、布団だけ仕舞って週に一回掃除しよう。毎日カーテン開けて陽の光を入れて。一也がときどき空気の入れ替えしてるのは知ってたけど、やっと最近あたし自身がそう思えるようになった。

 待つ。って言うのとはちょっと違う気もする。千也が出かけてて留守だから代わりにやっとく・・・そんな感じ。

 12月でぐっと寒くなって来たから少しだけ窓を開け、久しぶりに入った部屋の中を見回した。一也が布団を三つ折りに畳んでくれてた。干してから圧縮袋かな。ハンガーにかかったままの千也の服は見ただけで涙が溢れて。上にいる一也に聴かれないよう声を殺して泣いた。

 ひとしきり泣いてから自分に気合を入れて掃除を始める。もこもこのハンディモップでホコリの拭き取りから。ベッド、テレビ台、小物なんかは収納ボックスにちゃんと纏まってて、ウチってみんな片付け上手。
 雑誌とかDVDが並んでるラックの一番上には写真フレーム。あたしと千也、あたしと一也の結婚写真。そこで初めて気が付いた。三人で撮った写真だけ・・・無い? 別のところに置いてあるのかと部屋中を探す、でも見つからない。なんで。・・・まさか。

「一也・・・ッッ」

 階段の下から切羽詰まった声で呼んだあたしに。部屋から出てきた一也は急いで降りてきて、「どうしたの可南」と真顔であたしの両肩を掴んだ。

「写真が無いのっっ」

「写真・・・?」

 必死に訴えるあたし。眉を顰めて表情を曇らせた一也。

「三人で写ったやつだけ! ねぇ千也が持ってったんなら最初からそのつもりだったの?! 自分でいなくなったの・・・?! なんで、ねぇどうしてっ・・・?!」 

 一也が着てるパーカーを腰あたりでぎゅっと握りしめ、声を振り絞る。あたしを見つめ返す視線がほんの僅か逸れた。

「・・・・・・知ってた? 写真が無かったの」

 息を呑んで問い返す。
 一也が目を伏せた。

「知ってたよ。・・・可南には云えなかった」
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