幾千夜、花が散るとも
 一也は涙ぐむあたしの肩を抱き千也の部屋に戻ると、ベッドのむき出しのマットレスにあたしを座らせてから隣りに腰を下ろした。スプリングの軋む音が静まり返った部屋にぎこちなく響く。

「・・・・・・これから俺が話すこと聴いて」

 あたしの頭を自分に抱き寄せ、一也は静かに言った。少し怖かったけどあたしは小さく頷いた。これ以上悪い事なんてもうどれも一緒だから。

 言葉を切って一也が続ける。

「千也は・・・こうしなきゃならなかった理由が何かあったんだと思う。それが何なのかは分からないよ。でも普通に考えて可南と子供を置いて勝手に消える筈がないだろ、千也に限って」

 いなくならなきゃいけない理由・・・? あたしは一也の横顔をじっと見据える。ずっと考えないようにしてきた現実に、いい加減きちんと向き合う時が来たんだ。そう思った。

「ここにいると俺達に迷惑がかかることなのか、・・・そうせざるを得ないものを千也は何か抱えてたのかも知れない」

 俺もまだ調べてる最中だけど、と一也は少しトーンを落とした。

「千也が行ってた“メテオ”ってバーと、最後に辞めたホストクラブ“ルナティック”のオーナーは櫻秀会の組関係者みたいだ。・・・俺は千也が自分からヤクザと関わるなんて思ってないし、死んだってそんな男じゃない」

 きっぱりと言い切ってひとつ息を吐く。

「・・・・・・俺なりに考えた。可南、千也は子供を置いてったんじゃないよ。子供を残してったんだ、自分がいなくなるのを分かってて自分の代わりに。・・・可南の為に」
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