幾千夜、花が散るとも
「・・・千也が子供を残してったのも写真を持ってったのも、すぐには帰れないって意味だと思う」
一也は泣き疲れたあたしを自分の部屋のベッドに横にならせ、目を閉じてると傍に座ってずっと頭を撫でてくれてた。
「可南が何より大事な千也がそんな置き土産みたいな真似する筈ないだろ。1年なのか、もっとなのか・・・。だから次は俺と可南の子が欲しいなんて、らしく無さすぎなんだよ。・・・そうまでして千也が決めた覚悟(こと)だったんだとしても、勝手にいなくなって可南を泣かせたことだけは死ぬまで許さない」
最後のほうだけあんまりに冷たい響きを放ってたから。思わず目を開けて見上げると。苦そうに、仄かに笑んだ一也の顔があった。
「帰ってきたら殴るだろ普通」
「・・・・・・カオはやめて」
あたしは力無く笑う。そしてじっと一也を見つめ、問う。
「・・・千也、帰ってくる?」
「諦めは悪いほうだよ、あのバカ兄貴は」
頭を撫でてた指が頬を優しくなぞった。
「千也があのバーの何かと関係してるとしても、追われて逃げてる訳じゃない。もしそうなら俺達にもとっくに手が回ってるし、千也だってあんな普通にしてられないだろ」
「・・・・・・そっか」
「ん」
口の端で笑んでみせる一也の顔は、相変わらず綺麗だけど疲れて見えた。前よりほっそりして痩せたかも知れない。あたしが自分に閉じこもって苦しがって、何にも見えなくなってた間。一
也はずっと自分を後回しにしてあたしに時間を注いで。千也がいなくなって、一也だって余裕なんか無かったに決まってんのに。全部を背負わせてた。自分だけがセカイで一番不幸みたいに。
「一也・・・」
ぎゅっと胸が締め付けられて切なさが込み上がって。目から涙が溢れて落ちた。
「・・・・・・ごめんね」
「なんで謝るの・・・?」
一也が指で頬を伝う涙を拭ってくれる。
「ずっと・・・独りにしてごめん」
刹那。一也は目を見開いてふと顔を逸らした。横顔が苦しそうに歪む。
「・・・・・・一也がいちばん寂しがり屋だったのに。自分とこの子のことしか考えてなかった・・・。自分ばっかり悲しくて一也を抱き締めてもあげてなかったね・・・・・・」
あたしはゆっくりと躰を起こすと、一也の頭を優しく胸に抱き寄せた。髪に顔を埋めて口付けを落とす。
「・・・いいよ泣いても」
一也の肩が小さく震えて殺すような嗚咽が漏れた。
「・・・・・・ここで二人で千也を待とうね。一也と一緒だから・・・あたしは大丈夫。一也にもあたしがいるんだから大丈夫。この子が生まれたら泣いてるヒマなんかないよ?、きっと・・・」
懸命に涙を堪えながら弱弱しく微笑んで。一也を離さずに何度も何度も髪にキスをした。千也がいつもあたしにしてくれたみたいに。
一也は泣き疲れたあたしを自分の部屋のベッドに横にならせ、目を閉じてると傍に座ってずっと頭を撫でてくれてた。
「可南が何より大事な千也がそんな置き土産みたいな真似する筈ないだろ。1年なのか、もっとなのか・・・。だから次は俺と可南の子が欲しいなんて、らしく無さすぎなんだよ。・・・そうまでして千也が決めた覚悟(こと)だったんだとしても、勝手にいなくなって可南を泣かせたことだけは死ぬまで許さない」
最後のほうだけあんまりに冷たい響きを放ってたから。思わず目を開けて見上げると。苦そうに、仄かに笑んだ一也の顔があった。
「帰ってきたら殴るだろ普通」
「・・・・・・カオはやめて」
あたしは力無く笑う。そしてじっと一也を見つめ、問う。
「・・・千也、帰ってくる?」
「諦めは悪いほうだよ、あのバカ兄貴は」
頭を撫でてた指が頬を優しくなぞった。
「千也があのバーの何かと関係してるとしても、追われて逃げてる訳じゃない。もしそうなら俺達にもとっくに手が回ってるし、千也だってあんな普通にしてられないだろ」
「・・・・・・そっか」
「ん」
口の端で笑んでみせる一也の顔は、相変わらず綺麗だけど疲れて見えた。前よりほっそりして痩せたかも知れない。あたしが自分に閉じこもって苦しがって、何にも見えなくなってた間。一
也はずっと自分を後回しにしてあたしに時間を注いで。千也がいなくなって、一也だって余裕なんか無かったに決まってんのに。全部を背負わせてた。自分だけがセカイで一番不幸みたいに。
「一也・・・」
ぎゅっと胸が締め付けられて切なさが込み上がって。目から涙が溢れて落ちた。
「・・・・・・ごめんね」
「なんで謝るの・・・?」
一也が指で頬を伝う涙を拭ってくれる。
「ずっと・・・独りにしてごめん」
刹那。一也は目を見開いてふと顔を逸らした。横顔が苦しそうに歪む。
「・・・・・・一也がいちばん寂しがり屋だったのに。自分とこの子のことしか考えてなかった・・・。自分ばっかり悲しくて一也を抱き締めてもあげてなかったね・・・・・・」
あたしはゆっくりと躰を起こすと、一也の頭を優しく胸に抱き寄せた。髪に顔を埋めて口付けを落とす。
「・・・いいよ泣いても」
一也の肩が小さく震えて殺すような嗚咽が漏れた。
「・・・・・・ここで二人で千也を待とうね。一也と一緒だから・・・あたしは大丈夫。一也にもあたしがいるんだから大丈夫。この子が生まれたら泣いてるヒマなんかないよ?、きっと・・・」
懸命に涙を堪えながら弱弱しく微笑んで。一也を離さずに何度も何度も髪にキスをした。千也がいつもあたしにしてくれたみたいに。