幾千夜、花が散るとも
 ケーキの他にも少しだけ食材を買い足し、気温が下がる前に家に着いた。4時を過ぎれば今は夜が早い。ポストを覗いて郵便物を手に、中に入る。
 車のディーラーやらのダイレクトメールと、クリーム色の四角い硬めの手触りの封筒。宛名はウチの住所とあたしの名前が印字されてて、裏に差出人らしき名で『セルドォル』とだけ。聞き憶えもない名前にハッとして、急いで封を破って開ける。真っ先に千也の顔が浮かんだ。
 二つ折りで入ってたのは、聖母マリアが赤ちゃんを抱いて微笑んでる絵のクリスマスカード。『千也クンの友人 ユリコより』。それだけが女性の筆跡らしい手書きで。直感した、このカードは何かのメッセージだって。

「ッ・・・一也ぁっっ!」

 あたしが玄関先で上げた泣きそうな声に、台所から一也が驚いて駆け寄って来た。

「可南ッ?!」

「これ、ねぇっ、このユリコってあの旅行の時の人じゃないのっ? 千也のコトなんか知ってて送ってきたんじゃないの?!」

 一也はあたしの手からカードと封筒を取り上げると裏を見返したり、やがて硬い表情のまま言う。

「このセルドォルって店の名前かも知れない、ちょっと調べてみる。可南は着替えてきて。ココア入れてあげるから・・・一度落ち着こう」

 こういう時、一也はほんとに冷静で。あたしだけだったら、ただテンパるだけでセルドォルが何かなんて思いつきもしないだろう。

「あ・・・うん。そうだね・・・」

 焦りとか緊張を逃すようにあたしは息を吐き。外着を替える為に2階への階段を慎重に昇った。
 

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