幾千夜、花が散るとも
 二度目の正直でやっと対面できたユリコという女性は。目鼻立ちがハッキリした快活そうな美人だった。歳は上に見えるけど、白の細身のパンツにヒールの高いブーツを履いてスタイルも良い。両耳には大きなリング状のピアスが揺れてた。

「・・・さすが一也クンねぇ、キミならすぐにここに辿り着くだろうって思ってたけど。千也クンが言ってたもん、賢い弟クンだって」

 また次の日もセルドォルに出向き、昨日のオリエさんに店の奥のバックヤードに通されたら、すでに彼女が待っていた。・・・という訳だった。

「可南子ちゃんも順調そうで良かったわ、大事にしてね。千也クン本当に喜んでたから」

 目を細めてホッとしたように笑むのも本心からとしか思えなくて。この人は千也の味方なのかなって信じてもいい気がした。
 
「・・・俺達のことを千也から聴いてるみたいですね」

 中根由里子と名乗り、テーブルを挟んだ向かいから笑顔を絶やさない彼女に。一也はまだ警戒を解かし切らない様子で返す。

「千也クンとは割りと長い付き合いなの。ホスト時代からファンで、メテオにもよく通ったわ」

 こっちを見て屈託もなく、にっこりと。

「女の子のお客にどんなに誘われても口説かれても『大事なコがいる』って、ちっとも靡(なび)かなくてねぇ。そういう一途なとこもあたしは好きかしらね」

「中根さんはメテオのオーナーの知り合いだと千也は言ってました。・・・俺は櫻秀会の事はどうでもいいんです。知りたいのは、千也の失踪についてどこまでご存知なのかってことだけです」

 余計なお喋りには興味がないと言わんばかりに、一也は淡々と本題を切り出した。

「・・・そうね。キミ達は晶(あきら)には係わらない方が賢明だわ」

 スッと笑顔を消し、中根さんは真っ直ぐに一也を見据えてからこう言った。

「千也クンからの預かり物があるの。カードがちゃんと招待状になって良かったわ」
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