幾千夜、花が散るとも
 彼女が渡してくれたのはレンタルルームの鍵だった。

「あたしは鍵を預かっただけなの。・・・千也クンの居場所についてはノーコメントよ。ただね」

 真剣な顔付きであたし達を見つめて言い切った。

「彼が一日でも早く可南子ちゃんの許に帰れるよう、あたしも手を尽くす。それだけは約束するわ」




 中根由里子という人が何者でも、たとえそれが蜘蛛の糸ほど細い希望だったとしても。すがれるモノにはすがる。深くお礼を言いセルドォルを後にしたその足で、教えてもらったレンタルルームへと車を走らせた。

 大きな公園近くの4階建てのビルは、ルームナンバーを打ち込み鍵を差し込んで入るオートロック式。自動ドアの内側にはドアがずらりと並び、あたしと一也はエレベーターで3階まで上がる。鍵のナンバーは309だ。

 ナンバーリングされたドアの前に立ち、まず暗証番号のロックキーを解除する。中根さんはあたしの誕生日だと小さく微笑んでた。0412。一也が操作すると即座に解除され「・・・千也のヤツ」と溜め息が漏れた。

 ドアを開くとそこは2帖あるか無いかぐらいのスペースで。ピンク色で布製のキティちゃんのキャリーケースが一つ、ぽつんと真ん中に置かれてあるだけ。一也と顔を見合わせ近寄って中身を確かめる。

 ファスナーを開けると布テープで口が閉じられたビニール製の手提げ袋。取り出してテープを綺麗に剥がし開けると長方形の紙包みが入ってた。一也は外側から中身の感触を確かめただけで、すぐにキャリーケースに戻す。

「一也?」

「・・・見なくても分かった」

 憮然とした表情で言い、キャリーケースを持ち上げると外に出るようあたしを促した。

 専用駐車スペースに停めたヴィッツの後部シートにケースを積み、走り出してしばらくして一也が低く呟く。

「千也が俺達に残してくものなんて・・・金ぐらいだ」




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