幾千夜、花が散るとも
 家に帰ってからキャリーケースに入ってた包みを解いた。一也が言ってたとおり、積み重なったお札の束が見えた時。あたしは眸を歪めて「・・・こんなの要らなかったのに」と小さく呻いた。

「・・・・・・そう言うって分かってたから、中根って女に頼んで回りくどいやり方したんだろうな」

 深く溜め息を吐き一也は前髪を掻き上げる。

「こんなものに頼らなくたって俺ひとりで二人ぐらい養える。心配ないよ可南」
 
 到底、銀行口座には預けられないような金額だったから。千也の部屋の衣装ケースに仕舞っておくことに決めた。本人が戻るまで手を付けずに。

 空き箱に入れ替えようと束をぜんぶ床の上に取り出した時。白い何かが束の一つから覗いてるのに気が付いた。あいだに紙片が挟まってる。ゆっくり抜いて広げる。

 カナ、一也、ごめん。

 瞬間。その文字が目に飛び込んできて。
 あたしは声も無く息を。ただ呑んだ。
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