幾千夜、花が散るとも
放っとくと、そこいらの茂みだのに簡単に顔を突っ込む十也の手を引き、爽やかな緑と心地いい風に包まれてゆっくり公園を散歩する。色んなモノを触りたがるし、ウェットティッシュに消毒用ジェル、ペットボトルの水は必需品だ。
十也にとってはもう全部が宝の山なんだろう。あたしを可愛いお手々で引っ張っては『かなぁ、あれ』『かなぁ、こっち!』と大忙し。一時間近くそうして、腕時計を見ると3時過ぎ。そろそろ莉奈もお昼寝から醒める頃。寝起きは愚図るから一也が大変ね。
「十也、そろそろオウチに帰ろっか?」
「やだぁ」
ちょっと口をへの字に結んでイヤイヤと首を横に振る王子。
「莉奈が起っきするよ? 十也を待ってると思うなぁ」
かがんで十也と目線を合わせ、あたしはにっこり笑った。
「りな?!」
「うん。十也お兄ちゃんがいないと莉奈が、寂しいよーって泣くかも」
「じゃあ、かえるー」
十也も誰に似たのか妹が大好き。一緒の時は纏わりついて離れない溺愛っぷりだ。莉奈の名前を出せばほぼほぼ聞き分けてくれる。
それでもやっぱり、ほんとはもっと遊びたかったのか残念そうに視線を落とすから。頭を撫でてやりながら、あのね、と明るく言う。
「それにね今日はこれからみんなでケーキ買いに行くんだよ? 十也の大好きなイチゴのケーキ!」
「いちごっ?」
無邪気な笑顔。お、ご機嫌直った。
「さんたさん、くるの?」
サンタクロースが来る日はケーキを食べるっていう図式は出来上がってるらしい。カワイイ。
「んーサンタさんは来ないけどね。今日はねぇ」
「今日はね。カナの誕生日だよ」
その時。頭の上から降ってきた柔らかなその声に。あたしの心臓は鼓動すら停めた気がした。のろのろと立ち上がって、ぎこちなく後ろを振り返る。目の前にバラの花束と。ピンクグレーのネクタイ、白いシャツにチャコールグレーのスーツ姿の胸元が目に入って。
「29歳の誕生日だネ。おめでとう・・・カナ」
ずっと。ずっと気が遠くなるほどの想いで。聴きたかった、その甘くて優しい声に。ただ茫然と。ただそのまま。上を向くことすら出来ず、涙だけが溢れて何も見えなくなる。
夢なんだと思った。これは夢。だって。
どんなに願ったって帰ってこなかった。
毎日毎晩、もしかしたら、もしかしたらって。
だからこんなキセキみたいのって。
あるワケない・・・って。
何か云いたくても喉の奥で引き攣ったようにしゃくりあげて、顔なんか子供の泣き顔みたいにクシャクシャで。やっとのことで詰まった声を絞り出す。
「・・・ぁっ、千、也ぁ・・・・・・っ」
「・・・・・・うんゴメン、遅くなって。・・・ただいまカナ」
次の瞬間、力いっぱい抱きすくめられてた。
千也の匂い、腕、カラダ。何もかも全部があたしの。あたしだけの。待って待って、気が狂いそうに待ち続けてたあたしの。
もしもこの世にいないなら。後を追いかけてでも離れたくなかった、あたしの命より大事な男の腕の中で。名前を呼び続けてひたすら泣き崩れるだけだった。
十也にとってはもう全部が宝の山なんだろう。あたしを可愛いお手々で引っ張っては『かなぁ、あれ』『かなぁ、こっち!』と大忙し。一時間近くそうして、腕時計を見ると3時過ぎ。そろそろ莉奈もお昼寝から醒める頃。寝起きは愚図るから一也が大変ね。
「十也、そろそろオウチに帰ろっか?」
「やだぁ」
ちょっと口をへの字に結んでイヤイヤと首を横に振る王子。
「莉奈が起っきするよ? 十也を待ってると思うなぁ」
かがんで十也と目線を合わせ、あたしはにっこり笑った。
「りな?!」
「うん。十也お兄ちゃんがいないと莉奈が、寂しいよーって泣くかも」
「じゃあ、かえるー」
十也も誰に似たのか妹が大好き。一緒の時は纏わりついて離れない溺愛っぷりだ。莉奈の名前を出せばほぼほぼ聞き分けてくれる。
それでもやっぱり、ほんとはもっと遊びたかったのか残念そうに視線を落とすから。頭を撫でてやりながら、あのね、と明るく言う。
「それにね今日はこれからみんなでケーキ買いに行くんだよ? 十也の大好きなイチゴのケーキ!」
「いちごっ?」
無邪気な笑顔。お、ご機嫌直った。
「さんたさん、くるの?」
サンタクロースが来る日はケーキを食べるっていう図式は出来上がってるらしい。カワイイ。
「んーサンタさんは来ないけどね。今日はねぇ」
「今日はね。カナの誕生日だよ」
その時。頭の上から降ってきた柔らかなその声に。あたしの心臓は鼓動すら停めた気がした。のろのろと立ち上がって、ぎこちなく後ろを振り返る。目の前にバラの花束と。ピンクグレーのネクタイ、白いシャツにチャコールグレーのスーツ姿の胸元が目に入って。
「29歳の誕生日だネ。おめでとう・・・カナ」
ずっと。ずっと気が遠くなるほどの想いで。聴きたかった、その甘くて優しい声に。ただ茫然と。ただそのまま。上を向くことすら出来ず、涙だけが溢れて何も見えなくなる。
夢なんだと思った。これは夢。だって。
どんなに願ったって帰ってこなかった。
毎日毎晩、もしかしたら、もしかしたらって。
だからこんなキセキみたいのって。
あるワケない・・・って。
何か云いたくても喉の奥で引き攣ったようにしゃくりあげて、顔なんか子供の泣き顔みたいにクシャクシャで。やっとのことで詰まった声を絞り出す。
「・・・ぁっ、千、也ぁ・・・・・・っ」
「・・・・・・うんゴメン、遅くなって。・・・ただいまカナ」
次の瞬間、力いっぱい抱きすくめられてた。
千也の匂い、腕、カラダ。何もかも全部があたしの。あたしだけの。待って待って、気が狂いそうに待ち続けてたあたしの。
もしもこの世にいないなら。後を追いかけてでも離れたくなかった、あたしの命より大事な男の腕の中で。名前を呼び続けてひたすら泣き崩れるだけだった。