幾千夜、花が散るとも
「一也は女の子かぁ。可愛いだろうなぁ、莉奈」

 十也を真ん中に三人で手を繋いで。

「一也にそっくりだよ、見た目も性格も」

 あたしが笑うと「手強そーなお嬢サマだねぇ」と千也も笑う。

「それより・・・帰ったら一也に殴られるかも」

 ちょっと苦笑いで濁したのを千也は。

「顔は避けてくれるかなぁ」

 真面目に考え込んでる様子。それから真っ直ぐこっちに向いた眼差し。 

「・・・カナは怒らないの? いいんだよ、好きなだけ責めても。オレはそれだけのことしたろ」

 あたしは。
 
 黙っていなくなったコトは死ぬほどお説教してやりたい。一也と二人でどんなに苦しかったか。笑い話なんかじゃゼッタイ済まない、絶望と隣り合わせの日々だった。十也と莉奈がいなかったら。とうにあたしは壊れてた。

 けど千也も。きっと同じくらい苦しみ抜いて決めたハズだから。母親に捨てられて置いてかれる悲しみも寂しさも思い知ってる千也が。簡単な理由であたし達を残してったハズが無いから。

「・・・・・・千也の話を訊いてから決める」

 薄く微笑み返した。

「ちゃんと話してくれるんでしょ?」

「話すよ。・・・話したらカナはオレを赦さないかもね」

 一瞬、眸が仄暗く翳って見えた。垣間見えた千也の闇。けどそんなのは。

「あたしは千也が嘘さえ吐かないならいいの。他人には話せない秘密だったとしても、黙って一緒にお墓まで持ってく。・・・赦すとか赦さないとかは無いから」

 血の繋がらない兄妹で夫婦で、家族。それが禁忌だっていうなら。今さら咎の一つや二つ増えたって同じコト。ぜんぶ受け止める覚悟で愛してる。たったそれだけのコト。

 静かに言い切ってあたしは笑顔をほころばせた。 
 
「・・・お母さんになって強くなったネ。カナ」

 眩しそうに目を細め、十也を見やってから千也が小さく笑った。
 あたしは、どうかなぁと小首を傾げてみせる。

「千也の前だと変わんないかも。甘えん坊に戻るよ、きっと」

「いいよ。オレはカナが可愛くてしょうがないからねぇ、死ぬほど甘やかしてあげる」

 二度とどこにも行かないで、一生カナを大事にする。・・・誓うよ。



 千也はやんわりと笑んで、遠くを見晴るかすように。空を仰いだ。





【完】





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