うたかた花火
約束
ーside榛菜ー


「ここから見える花火はいつもきれいだよね…。」



窓から身体を半分だけ身を乗り出して私は先生に言った。




「榛菜…。もっと近くであの花火を見てみたいか?」




「見てみたい…。けど、私は人込みはだめだから…。」




「榛菜…。顔を上げてごらん。


治療して、一時的にも安定してくれば少しの間なら、花火を見ることだってできる。



榛菜が、頑張ってくれるなら俺は全力で榛菜を支えていきたい。」






「先生…。



そんなに私と近くであの花火を見たいの?」





「榛菜と一緒に見たい。」





「じゃあ、先生。


指切りげんまんしようよ。



私も治療頑張るから。


先生も、一緒に頑張ってくれる?」





「あたりまえだよ…。



榛菜が、頑張れるように支えることが俺の役目だから。」





「先生に、助けてもらって本当によかった。


ありがとうございます。」







「何だよ、急にかしこまって。


榛菜らしくないよ。」







「私だって、本当は怖いんだよ…。



いつ、いなくなるのか分からない。


私は、後悔しないように気持ちを伝えられなくなる前に伝えたいの。」






「いなくなるなんて…。そんな縁起でもないことを言うなよ。



大丈夫なんて簡単には言えない…。



でも、できる限りのことはしていきたい。



さっきも言っただろう。花火が近くで見ることができるようにさせてみせるって。



その目標を達成するために、俺1人が頑張っても意味はないんだ。


だから、榛菜にも協力をしてほしい。」





「先生って、あんまり『頑張って』って言わないよね。」





先生は、いつも私が不安な時『頑張って』という言葉をあんまり使わない。




いつも、別の言葉に置き換えるか、何も言わず私を優しく包み込んでくれる。




それが、どれだけ安心できるか…。




「当たり前だ…。


榛菜はいつもやりたいことを我慢して、痛いことも我慢して治療に取り組んでくれる。



いつも頑張ってる榛菜にこれ以上『頑張れ』なんて言えない。


肩の力を抜いてゆっくり深呼吸して、生きていくことだって大切なんだから。」





「先生…。ありがとう…。」



「お礼なんて言わなくていいよ。」




この夜の日に交わした先生との約束を、私は大切に心に受け止めた。


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