同僚は副社長様
秘書の思惑
古川くんから、杏奈さんの結婚を聞かされてから、早1ヶ月。
結局あれから、彼がどうしたのかは分からない。
結婚式には出席したのだろうか。……いや、挙式の時期なんて聞いていないから、まだ式は挙げておらず、相変わらず彼は悩んでいるのかもしれない。
彼と杏奈さんのその後について、とても気になるけれど、2人にとって赤の他人の私から口を挟むことはできない。
不必要なお節介は、あの一回だけで十二分だ。
「…いー天気。」
太陽の日差しで夢から覚めた私は、ぐーっと軽く背伸びをした。
アラーム音に邪魔されずに快適な朝を迎えた今日は日曜日。会社は休みだ。
天気もいいし、今日は洗濯や掃除に専念してみようかと、いつもなら億劫になりがちな家事にやる気が出る。
(結婚、か……)
杏奈さんが結婚することは、少なからず私にも動揺を与えていた。
そう言えば最近、高校の友達から結婚式の招待状が来てたな。
ここ数年、周りの怒涛の結婚ラッシュに、焦りを感じないわけじゃなかった。
好きな人がいないわけじゃない。だけど、それは不毛の恋。相手は、振り返って私を見てくれるような人じゃない。
古川くんの好きな人が結婚したからといって、彼が私を見てくれるとは、到底思えなかった。
古川くんは、私と同僚であるという関係を、信じきっている。
私が彼に想いを寄せていると知られたら、彼の信頼を崩しそうで怖い。
私が仕事に頑張る理由も、彼の前では良き同僚の顔をしている理由もすべて、彼によく思われたい一心でやっていることだ。