同僚は副社長様
「そんなに驚くことかな」
今の時代、20代女性で独身なんて、珍しいことでもないのに。
もうすぐ三十路に突入するというのに、浮ついた話一つもできない自分が悲しくて、響くんに苦笑いしか向けられない。
古川くんへの想いを断ち切ろうと思ったのは、こういう時に自己嫌悪になる自分がいるからというのも一つの理由だ。
私に女としての幸せを掴めないようにしているのは、紛れもなく不毛な恋をしている自分自身であるというのに。
『…いや、芽衣から美都ちゃんには前々から好きな人がいるって聞いてたから、そんなにきっぱりと結婚の予定がないって否定されるとは思わなくて。』
やだ、いくら自分のお兄さんだからって親友の恋をペラペラと…。
古川くんへの想いを、会社も違うし面識がないからと思って芽衣に話したのがいけなかったか、と後悔してももう遅い。
それに、響くんの言葉からして、私に好きな人がいると知っていたから、『予定はないけど、結婚したいと思ってる人はいる』的な言葉を私から聞けるとでも思っていたのかな。
「やだ、響くん。私、両思いになる見込みもない人との結婚を望むほど、子どもじゃないよ。」
その一言で、私が抱えているものを少しでも分かってくれたらしい響くんは、それ以上むやみに言葉を発さなくなった。
「それに、想像できないの。」
『え?』
なんだか、今日は妙に自分の心の声がスラスラと口から出て行くようだ。
いつもだったら、たとえ喉元に出かかっても無理矢理に心の奥に押し込むことができることも、なぜか響くんの前ではスルッとこぼれて行く。
それは、お酒のせいなのか。
それとも、久々の再会を果たして、響くんの前で舞い上がっているからなのか。
「彼と私が、両思いになって、結婚している未来が。」
古川くんが私との未来を全く考えていないのと同じように、私も片想いが長すぎて彼の隣にいる自分を想像できなくなっていたのだ。