同僚は副社長様
秘書の動揺
翌日、私は普段通り副社長室の隅でパソコンとにらめっこしながら業務をこなしていた。
ここ7年で積み上げたタイピングスキルを駆使していると、パソコンの画面に表示されている時刻に手を休める。
もうそんな時間か。
すくっと席を立った私は、副社長室から退出し、秘書課の給湯室へ向かう。
今、ちょうど12時を回ったところだ。
副社長様ご愛用のコーヒー豆をコーヒーメーカーにセットして、出来上がりを待つ。
副社長へのお茶汲みは、出す時間が決められている。
副社長が出社される9時と、昼休憩に入る12時、そして午後の業務が終わる18時。
それぞれの時間帯にカフェインを摂取しないと集中できないと、副社長から直々に頼まれたのだから、どんなに自分が抱えている仕事で首が回らなくなっていたとしても、これを疎かにはできないのだ。
ピー…ピー…
コーヒーの出来上がりを伝える電子音が鳴り響くと、副社長専用のマグカップにできたてのコーヒーを注ぎ、副社長室へと引き返す。
『あ、美都ー!』
給湯室から出た途端、後方からかけられた明るい声。
コーヒーがこぼれないように振り返ると、そこには昨日会ったばかりの凪子がにこやかな笑顔で手を振っていた。
「…凪子?珍しいね、こんなところで。」
秘書課があるフロアと営業部があるフロアは階が違うので、社内で彼女に会うことはほとんどないだけに、驚きを隠せない。